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熱量 1枚の絵画が放つLOVE STORY 第4章 琥珀

琥珀との出逢い

一ツ橋の出版社からどれくらい歩いたのか、千鳥ヶ淵の遊歩道にいた。 桜の時期は花見客で溢れているこの歩道は、紅葉を控え樹木が生い茂り、人はまばらながらそれなりに趣がある。 ミイミイとなんだろうか、聴こえる。 落ち葉に何かが埋もれている。そっと葉をよけると生まれて間もない仔猫が・・・。 親猫に育てられているとは思えないほど衰弱している。 凛子は仔猫をタオルにくるみタクシーを拾った。 「四谷、荒木町まで。」 凛子の住まいは100年続く料亭の敷地内にある。 叔母が女将を務め、代々豪商の屋敷を曾祖父が買い取り料亭を営んでいる。 長崎総合病院の院長を務める凛子の長兄、蒼が医学部在学中に居住していた。 「あそこの動物病院の前で降ろしてください。」 料亭の庭に住み着いている猫を連れてくるかかりつけの病院だ。 「凛子さん、どうしましたか?」 「千鳥ヶ淵で拾ったの。助けて欲しい。」 「生後1週間くらいかなあ、よく生きていたね。保証はできないけど1週間程度預かります。連絡します。」 「よろしくお願いします。」 料亭の裏口から厨房を通って庭園の脇を歩き、従業員宿舎を抜けた先に、メゾネットタイプ4部屋のみの低層住宅1部屋が凛子の住まいだ。 凛子の他は外資系バンク、スーパーブランドの日本支社、大手弁護士事務所がここ10年社宅として法人契約している。 祖父や父の伝手なのだろう。セレブでエグゼクティブなのは確かだ。非対面の設計はイギリスの建築家によるもので築50年だ。 中庭には猫がゆったりと暮らしている。一応飼い主は凛子だ。 1週間後、院長から連絡が入る。 「お腹の調子も整い、目も開いて順調に回復しました。凄い生命力です。」 「すぐに伺います。」 凛子は仔猫と出逢った日から、庭の手入れと料亭の帳場の手伝いの毎日。 デスクに向かう気もなかった。 友人の奏子から電話だ。 「聞いたよ。日本の契約は著者には不利。甲乙ってなによねえ、そのうえ曖昧だし、グレー過ぎる。いまだに是正されないし、ほんときつかったね。双方が納得するまで詰めて、法律上きちんと契約し書面に残すことがまだ当り前じゃないから、企業有利なんだよね・・・。もう見切りつけて上海においでよ。言葉も困んないし住まいと仕事は任せて。」 彼女は上海を中心にアジアでファッション媒体のディレクターとして活躍している。 「ありがと。でもいまは何もしたくない。しばらく休業する。」 「いまさらお金に困らないんだから、それがいいよ。」 奏子もいるし上海もいいかな。 ゲージから出てきた小さな猫は、白い毛がぼそぼそと生え始め栄養状態もいいようだ。 なんといっても瞳が黄金色で大きい。 「長毛ですね。瞳が美しい男子です。」 仔猫は凛子の顔を見ながら必死で泣き叫ぶ。どうかおいてかないでと訴えるようだ。 「離乳食にも慣れています。1週間したらまた来てください。」 名が決まってないからか、渡された診察券に名がない。 「名前は琥珀にします。」 「琥珀くんですね。瞳の色にちなんで・・・。」